【今月の駄話】クライアント、制作会社、代理店 Web広告の運用者が考える効果の出しやすい環境
2022/03/17
その月の世の中の話題から、コンテンツマーケティングやプロモーション、コミュニケーション戦略について考察する『今月の駄話』。2022年2月は気になる話題から少し離れて、Webプロモーションにおける運用者の役割について、ユーフォニー代表・木村とWeb関連パートナー・Yの2人でお送りします。
ストーリー性の弱いクリエイティブに潜む要因
【木村】:Yさんには弊社のWeb関連の動きで、サポートをしてもらっています。ユーフォニーはコンテンツを始めWebサイトなど“制作”がメインなんですけど、Yさんの主となる部分はどう説明すれば良いですか?
【Y】:元々はWebディレクターをしていたので、Web周りの事はこれまでに一通りやってきました。今は「マーケティングを極めたい」と思っていて、Web広告の代理店に籍を置いて、ADプランナーをしています。分かりやすく言うと、Web広告の“運用”です。
【木村】:eupy TIMESでは、プロモーションやコンテンツマーケティングの基本的な事を紹介しながら、ユーフォニーの考え方や方向性についての社内理解を深めたいと思っています。その中で、“制作”と“運用”の考え方を整理する機会が欲しくて、Yさんに協力してもらいました。
制作会社(制作者)は、今風に言うと「コミュニケーションを最適化していく人」で、ADプランナー(広告代理店)は「広告出稿を最適化する人」。両方が機能することで、プロモーションの効果が最大化していくはずなので、どちらも重要な役割ですよね。これまでの経験から、運用と制作の関係性をどう見ていますか?
【Y】:あくまで私が関わってきた中での話ですが、代理店の担当者がプランニングをしているクリエイティブは、「作っただけ」という印象のものも多く、相対的に弱いように感じます。
【木村】:代理店内に、クリエイティブ・ディレクターはいるんですよね?
【Y】:今の環境だといます。ただ、担当するクライアント数が多くて、ルーティンワークになっているように感じますね。だから、クリエイティブがクライアントの課題解決に至っていない事がよくあるんです。
【木村】:“予算管理のプロデューサー”になっているということですか?
【Y】:そうですね。「予算内で“いくつ”作れるのか」というのを重視している部分があるので、そういう価値観で作られたクリエイティブは、ストーリー性が弱いように思います。
【木村】:Webの広告はとりあえず出して、そこから少しずつ改善していくというスタイルがほとんどなので、どうしても“数を作る”という考え方になってしまうのかもしれないですね。
【Y】:Web業界では、そういった意識が根強いと思います。PDCAのサイクルを早くする事が、結果に繋がると言うんですかね……。
【木村】:認知拡大やイメージアップのための広告は効果を可視化しづらいので、代理店としては数字を出しやすい“刈り取り型”の広告に注力する形になるんでしょうね。数字を根拠に、刈り取り広告を回していくとなると、ストーリー性のあるクリエイティブを作りにくい環境ではありますね。
クライアントから見た代理店は、パートナー?下請け?
【木村】:YouTube等で「TVでは出来ない」なんて言葉を聞きますけど、Webの魅力の1つが自由度の高さですよね。PCやスマートフォンがあれば、誰でも簡単に発信する事が出来る。ただしそれ故に、発信者にはモラルが、受け手にはリテラシーが求められていると思うんです。
【Y】:“情弱”なんて言葉が出て来たのも、わりと最近の話ですもんね。
【木村】:そういった情弱な人を狙い撃ちするような、過剰な“煽り広告”がWeb界隈では頻繁に問題になりますよね。
【Y】:私の立場からすると“過剰な煽り”はやりたくないんですけど……。そういう広告は、成果が出やすいという事実はあると思います。
黒に近いグレーな表現でも、クライアントからそこを訴求して欲しいと言われたら、要望に合わせたクリエイティブをつくって、運用していかなければならない。個人的には、そこにもどかしさがあります。ただ、最近は媒体(メディア)側の意識が高くなってきていて、業界全体的で“煽り広告”を排除しようという流れはあります。
【木村】:今の話を聞くと、クライアントと代理店の関係が“パートナー”というより、“下請け”になっているんですね。
【Y】:そうですね。みなさんがご存じのような大手の代理店だと、対等なのかもしれないですけど、そうでない場合は、広告業務の効率化だけを求められる事が多いのではないでしょうか。
【木村】:効率的な広告運用をするのは、大事ですよね。僕も、広告に限らずアクセス数や再生回数の業界水準みたいな数値は調べたりするので、そこを気にするのは当然のことだとは思います。
だけど個人的には、“効率化”ってデジタル化の弊害の1つだとも感じているんです。効率に寄り過ぎると、何もかもが同じで、没個性になりやすい。
【Y】:アイデンティティーが失われるのは、残念ですよね。
【木村】:分かりやすい数字で評価をされて、かつクリエイティブにかける予算が限られている状態だと、中央値を狙いがちになんですよ。
【Y】:広告を出すからには、数字を追いかけるのが当然だとは思います。でも、そこだけで良いのかなというのは、いつも感じていますね。
【木村】:中央値に集まるということは、どれも同じようなクリエイティブになってくるんですよ。そうなると、出稿予算が潤沢な方が圧倒的にデータを集められる。その指標で作られたクリエイティブというのは、大資本が有利な土俵で戦うことになっていると思うんです。
Webやクリエイティブは、予算が少なくても自由なアイデアや感性でそこを補うことが出来るのが魅力なのに、思考が停止してしまうのは勿体ないですよね。
重視する数字はクライアントのリテラシーで変わる?
【木村】:広告の運用は、様々な数字を分析しながら進めていきますよね。関わっている所では、どんな数字を重視していますか?
【Y】:今は“獲得系”の案件が多いので、完了ページや購入ページといったゴールの数値を重視しています。
【木村】:いわゆる“コンバージョン(CV)”ですね。この数字は分かりやすいですもんね。
中長期的な視点から見る“ライフタイムバリュー(LTV)”という考え方も浸透しているように思うんですけど、Yさんの周りではどうですか?
【Y】:代理店としては、直近のCVでしか判断が出来ないないケースが多いですね。LTVは、運用側ではなくクライアント側が定義するものでもあるので、代理店だけでは計測が難しい面があります。
【木村】:そうなると代理店に期待されているのは、新規顧客の獲得という事ですか?
【Y】:もちろん長い目で見た提案もしますが、全体像を見るのが難しい場合が多いんです。クライアントによっては、ブランディングを別の企業に依頼しているケースもありますしね。そうなると、代理店に降りてくる情報が限られたりもするので、どうしても計りやすい数字を見る傾向にあると思います。
【木村】:そういう場合だと、クライアントの広報チームが、どれだけしっかりしたビジョンを持っているのかというのが、重要になってきそうですね。
【Y】:そうですね。広報(クライアント)、マーケティング(代理店)、クリエイティブ(制作会社)が、ビジョンを共有出来ている環境が望ましいと思います。個人的には、小さいチームの方がやりやすい印象があります。
【木村】:少人数だと意思疎通が早くなるので、Webの強みを生かしやすいですよね。
【Y】:その辺りを上手くまとめられている会社は、少ないように感じます。例えば、Web広告の数値目標は達成しているのに、問い合わせが年々減ってしまっているというケースを見た事があります。
そうなると、そもそもWeb広告が向いていなかった可能性もある。ですけど、Webを中心にした代理店だと担当者が「マーケティング=Web広告」という概念に捉われている事も少なく無いように思います。
【木村】:施策はWebだけで無いですからね。
【Y】:総合的に判断できる人がいないと、数字はクリアしているのに、クライアントの企業としての成長に繋がらないケースが出てくると思います。オンライン、オフライン問わずに、広い視点で意見交換が出来るチームだと強いですね。
【木村】:ユーフォニーの場合は、クライアントから施策の要望があっても親和性が低ければ、「他の事をやりましょう」って言ってしまうんですよね。だから、相性の合うクライアントと、そうでない所の差が激しいかもしれません(笑)
【Y】:でも、それはお客さんのことを想ってのものですよね(笑) マッチしない施策を行うのは、結果的に全員が損をしますよ。
大きな組織、小さな組織 パートナー選びのポイント
【Y】:さっきは小さなチームが良いと言いましたけど、大きな組織にも勿論メリットがあるんですよ。現在の私の環境だと、運用より前のタスクは別のスタッフが担当しているので、ほとんどの時間を広告の管理画面と向き合うことに使えます。そうなると、常に数字を見て分析が出来るので、ブラッシュアップや最適化を速やかに行えるんです。
【木村】:小さな組織だと、それぞれが領域を横断しての作業になるので、専門性という意味では少し弱くなるかもしれません。その分、マルチな視点を持っているでしょうが。
【Y】:そうですね。小さな会社の担当者の方が、色々な事に答えてくれるかもしれませんね。大きな組織になればなるほど、責任の所在が曖昧になってきて、確認に時間がかかったりもするので、どんな担当者に当たるのかが重要になると思います。
【木村】:複数のクライアントを担当していると、「one of them」という意識になってしまうケースもありますからね。代理店にても制作会社にしても、実績や知名度は大きな判断材料になりますが、最終的には人と人の付き合いですからね。
【Y】:「私のために何かをしてくれた」と感じてもらえないと、良い企業にも良い商品にもならないのかなと思いますね。
【木村】:クライアントの置かれている状況によっては、one of themな対応でも数値が改善すればOKという場合もあるでしょうし、全部に当てはまる正解は無いと思います。ただ、代理店も制作会社も千差万別なので、今の自分たちに何が1番必要なのかはしっかり考えてから、パートナーを選んでもらいたいですね。
それと、短期目標となる数字だけではなく中長期的な展望が見えると、代理店も制作会社も提案の幅が広がるので、出来るだけ多くの情報を共有してもらえると良いですね。
Profile
株式会社ユーフォニー
人のため、社会のために生み出された結晶をコンテンツを通じて必要としている人たちに届けるお手伝いをする会社。コンテンツによって企業やサービスに付加価値を与え、ブランド力の向上を図るとともに、発信した情報によって人や社会に貢献していくことをミッションにしています。